ずいぶんと涙もろくなったものだなあ・・・
ぼくは一冊の文庫本を読み終えてこころの中でつぶやいた。
思えば小説に熱中したことなんてはるか遠い昔だ。
すくなくともここ20年は読書らしい行為から遠ざかっていた。
特にひとりの作家にはまることなどまるでなかったのだが・・・
きっかけは中学2年の息子である。
彼は学校からもらってきた推薦図書の注文用紙を見せながら
遠慮がちに言った。
「この本が欲しいんだ、無理ならいいけど・・・。」
我が家の経済状況は多少なりとも理解してくれている。
離婚したばかりのころは注文用紙をもらうたびに買いあたえていたが、
すっかり主婦の感覚が身に付いた父親は、
一度しか読まない本を買うのはもったいないと思うようになっていた。
もっとも気に入れば何度も読み返すのだろうけど、
それは読んでみないとわからない。
「そうか、でも悪いけど図書館で借りてくれないか。」
いつもならそう言っているのだが、その日はちょっと違った。
息子の読みたいという小説に興味があったからだ、
今まで興味がなかったわけではない。
彼の本に目をとおしたことはあるものの、正直言って中年世代の自分には読み
応えを感じさせてくれるものではなかった。
しかし、中学2年生ともなれば少しは大人びたストーリーを好むはずだ。
ぼくは一計を案じた。
「古本でもいいか?」
息子はすこし意外そうに顔を見あげて言った。
「読めるならなんでもいい。」
最近は新刊でもネットオークションに出品されるケースも少なくない、
読み終わったらすぐに出品したほうが高値で落札されるのだろう。
だが彼の希望した本はそれほど新しいものではなかった。
その本はすぐに見つかった、『エンジェル』 作家は石田衣良。
「イシダ、キヌヨシ・・・?」
恥ずかしながら、キヌヨシではなくイラと読むのだということは
本が届くまでわからなかった。
『投資会社のオーナー掛井純一は、何者かに殺され、幽霊となって甦った。
死の直前の二年分の記憶を失っていた彼は、真相を探るため、
ある新作映画への不可解な金の流れを追いはじめる。
映画界の巨匠と敏腕プロデューサー、彼らを裏で操る謎の男たち。
そして、一目で魅せられた女優との意外な過去。複雑に交錯する線が
一本につながった時、死者の「生」を賭けた、究極の選択が待っていた。』
なるほど、おそらく息子は『幽霊となって蘇った』という部分に
強くひかれたのに違いない。
たしかに面白く一気に読み終えてしまったが、
ぼくが涙をこぼしてしまったのは『約束』という短篇集のほうだ。
石田衣良作品が数冊まとめて出品されていたのでそれを落札した、
その中の一冊である。
作品の内容は、他の誰かがブログなどで書いているだろうから
あえて紹介しない。
ただ、読み終わったあと、自分が今どんな顔をしてるのかと、
ふと思って鏡を覗き込んだ。
案の定、充血した目、泣いてるくせにちょっと笑ってる変な中年の顔である。
たぶん、いや、間違いなく、気持ち悪い顔だ。
『苦しみから立ちあがり、もういちど人生を歩きだす人々の姿を鮮やかに切り
取った短篇集。たくさん泣いたあとは、あなたの心にも、明日を生きるちいさな
勇気が戻っているはず。 解説:北上次郎』
今はどん底ではない、明日を生きる大きな勇気だって、ある。
だけど、なんだろう・・・?
「つんさんは、前向きすぎる!」
いつか言われた言葉、すぎるのがなぜいけないのか、わからなかった。
人の苦しみがわからない、お気楽すぎる、とでも言いたかったのだろうか。
自分に負けないことばかり考えてきた、どんなこともプラス思考でいこう。
辛くたって、笑ってやれ・・・
でも、いっぱいいっぱいになって子供達に厳しくあたることも少なくなかった。
ここらで少し生き方を変えようか。そんなふうに思ったのは初めてだ。
壁は、乗り越えるか、ぶち壊すかしてきたけど。
回り道するって方法もあるし、まったく別の道を選んだっていいじゃないか。
生き方というか、力の抜きどころを変えてみようと、たった三歳だけ年上の、
この作家の作品に触れて思ってしまったのである。
そして、おそらくこれからは文章も影響されていくかもしれない。
いや、すでにかなり影響されてる。(笑)
いやあ~、小説って、本っとにいいもんですねぇ~・・・
ああ、最後にスベるこのクセ・・・何とかならんかな・・・(爆)
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